ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「名前とか聞いている?もしそれならこちらで関係者席を一席空けて受付でチケットを渡してもいいが……」

 百合は鞄から先ほどもらった名刺を取り出して神楽へ見せた。

 神楽はその名刺を見て、固まった。

 堂本黎。大学の同窓だった。堂本コーポレーションの御曹司だ。

 神楽の頭に黎の端正な顔立ちがすぐに思い浮かんだ。
 
 彼は学業においても非常に優秀で、卒業時に学部生代表として答辞を読んだ。
 確か、お父上が社長でそのまま会社へ入社したはず。
 
 名刺にもう一度目をやると、東京営業本部とある。やはり、東京勤務だ。
 なぜ、ロンドンにいたのだろう。
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