ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

父親


 百合には言えなかったが、黎は神楽と予定通り先週金曜日に会っていた。事務所の会議室で人払いし、鍵をかけている。神楽が仕事だけではない話があると突然黎に言った。黎は予想通りだったと勘のいい神楽を正面から見つめ、うなずいた。

 「まずは、仕事のはなしからしようか」

 「そうだな。想像以上の売上で会社のほうも驚いている。いくらかマージンが入ればいいかなと思っていたがここまでとは思っていなかったようだ。まあ、百合の実力を侮っていたうちの上層部だけでなく、そっちの事務所の上層部にはいい薬になったろう」

 黎が挑発するように言う。確かに、上層部は別なピアニストを推していた。百合の容姿を計算に入れていなかったのかも知れない。芸能事務所ではないから、当たり前だが、他のピアニストとの関係もあるのだろう。

 神楽は答えた。

 「ああ。そうだな。俺は溜飲が下がった。忙しくなったのは玉に瑕だな」
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