ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
接触してきた?どういう意味だ。父親なら、会うのが普通だ。
「……いったい、どういうことだ?」
「百合の父親はとある省庁の大臣だ。つまり、国会議員。世襲している家庭だ」
まさか。いやどういうことだ?顔色を変えた黎を見ながら小さい声で話し出した。
「百合の母は水商売だったんだ。愛人の娘だ」
黎は驚いて声も出なかった。
「父親の家柄を考えても一緒になれるはずもない。金を受け取らず、彼女を産んだ。後々を恐れて大臣の家から監視されていたらしい。で、彼女が音楽に秀でていることに気付いた母親は父親へ会いに行き、彼女に学費を出してくれと頼んだ。音大へ行けたのはそのお陰。だが、生活費は自分達で工面していた。彼女は母親を大学入学後すぐに亡くしたが、アルバイトと練習に明け暮れる毎日だったらしい」