ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「言いたいことはわかる。だが、百合は俺にとってすでに半身だ。もぎ取られたら血が出て、生きていけないかもしれない。それくらい、やっと現れた俺が望んだ女性なんだ。死ぬくらいなら、何でも出来る。俺の家のことも何でもやってやる。彼女のためならな」
神楽は言っても無駄だとわかった。百合とも話さねばならない。彼女から黎と距離を置くように言う方がおそらく言うことをきくだろうと思った。
その頃。百合は父親からの再三のメールを無視し続けていた。
学費を出してもらったことへの恩は返したつもりだった。コンクールの受賞者となったとき、父親に金が無駄にならなかったと言われたからだ。
今後は他人でいましょうと言って別れた。それなのに、おそらく売れてきた自分を利用したいんだろう、また接触してきた。
コンクールの受賞者になったときと同じ。自慢したいのだ。そのたびに義理の母にあたる現在の彼の妻から釘を刺された。そんなことは言われなくてもわかっている。