ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
土曜日。久しぶりに事務所へ行って、地方コンサートの打ち合わせをするつもりだった。神楽にちょっとと言われて小部屋へ通された。黎のことを言わねばならないと思っていたから、百合は丁度いいかもしれないと神楽を見つめた。
「百合。君の父親から俺宛に連絡が来た。メールを無視しているらしいな」
百合は驚いた。まさか、事務所へ連絡してくるとは思っていなかったのだ。確かにここ数日、何も言ってこないから諦めたのかと安心していた。
「……すみません。こちらに連絡してきているとは知らず。諦めたのかと思っていました」
「今度の選挙前に地元で支援者を集めた会にお前を呼んで弾いて欲しいと言っていた」
「素性を隠して弾くんですよね?どういう名目で私を呼ぶ気なの」
「お前のこと、公表したいと言っていた」