ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
さっきも偶然だと言っていた。だいたい、モテる黎がわざわざ百合を口説く必要などない。住む世界も違う。大丈夫だろうと思い直した。
「百合。彼は知り合いだよ。堂本コーポレーションの御曹司。そして僕の大学の同窓生だ」
「え?本当に?すごい偶然ね」
「ああ、すごい偶然だ。卒業してから会ったことはない。五年ぶりだ。元気だったか?」
「ええ。何か、お仕事とプライベートの両方でこちらに来ているとか言ってたわ」
「チケットの件。僕から連絡しておこう」
「そう?ならお願いします」
「……それから。彼から、何か言われた?」