ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「父が言っていた通りですね。お父様から反対されたでしょ。わたしのことを調べている記者がいて、黎のことも何か言っていたそうです。黙っていてごめんなさい」

 黎は百合の両手をつかんで自分の膝に置いた。

 「百合。そんなことは問題じゃない。君のお父さんやうちの父に了承を得ないと付き合えないような関係じゃないだろ?世間に何を言われようと恥ずかしいことなんて何ひとつしていない。いいか、後ろ向きになるな。辛いことからは俺が守ってやる」

 「ありがとう。気持ちは嬉しい。でも、きっと一騒動起きる。父は私を利用する気だし、記者はそういう父を利用する気だわ。私は自分で記者会見を開くようなことはしたくない。でも、人様にさらすような経歴ではないし、亡くなった母の名誉のためにも余計な中傷は避けたいの。週末の後援会での演奏が終わり次第、アメリカへ早めに起ちます」

 「……わかった。二週間くらいだっけ?海外公演予定は」

 「ええ。でもその間、黎にも記者が来るかも知れない。本当に気をつけてね」
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