ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「……まあ、理屈はそうだが」
黎の気持ちはわかる。だが、神楽は百合のためにもこの交際は反対だった。ピアニストとしての未来を断たれてしまいかねないと危惧していたのだ。
百合は予定通り後援会での演奏後日本を離れた。記事の反響は大きかった。母親については、すでに他界しているので詳しく書くことは控えられていた。また、突き止めたとしても亡くなっている前妻を攻撃することは控えられた。大臣のにらみもきいたのか、百合の心配していた母の職業については表沙汰にならずすんだ。
だが、交際に関しては堂本のほうがいくらもみ消しても、資金提供していた事実や百合と黎の一緒にいる姿をやはり目撃している人が多く、そちらのほうが大きな噂となっていた。
元々、社交界のようなところで黎が有名人だったこともあって、百合が資金提供自体の理由だったと噂に大きな尾ひれがついて話が回っていた。そして、実は愛人の娘だという話も百合を調べたところから漏れはじめていた。