ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「日本へ帰る前に別れのメールをします。友達に戻りたいと伝えますので、何かあったら助けて下さい」

 「ああ、もちろんだ。何でも言ってくれ。力になる。堂本も俺の知り合いだし、何とでもする」

 その頃。
 
 黎は仕事でも百合のことを雑談のように聞かれることが増えてきていた。噂好きの社交界の女性達は、黎から長い間袖にされてきたので腹いせも手伝って、百合のことを悪く言う人もいた。
 
 最近、百合から電話もないし、メールもない。日本の状況は心配いらないと伝えたが、もしや何か耳にしているのかもしれないとその頃になって不安になってきた。

 父との約束の一年まであと三ヶ月しかない。黎は焦りはじめた。本当はこんなはずではなかった。正直今頃プロポーズしている計算だった。

 柿崎からこんなことを言われた。
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