ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「黎様。栗原さんとの交際を社長は決して許さないと私におっしゃっておられます。彼女に何かすることはないと思いますが、きちんと社長と話し合う必要はあるかもしれません」

 そう言ってから、少し置いて俺をじっと見て小さい声で話し出した。久しぶりに聞いた話し方。幼い頃友達だった彼が現れた。
 
 「俺はあなたの仕事上の部下ですが、長い間側で見てきた友人として今は話します。やっと見つけた大切な人なんでしょ?俺と奈津は黎様の味方です。実はイギリスの奥様に奈津が話をしてあります。奥様は黎様の最大の味方ですからね。勝手なことをしてすみません。でも、社長を敵に回すには準備がいります。何でも相談して欲しい」

 嬉しかった。そうだ、味方がいた……こんな近くに。母がいれば、きっと百合のことを応援してくれたはずだ。

 「柿崎。いや、勇。ありがとう。久しぶりにお前が友人として俺を見てくれたことに感謝するよ。いつも部下にさせてすまない。ふたりでいるときは今のように友達に戻ってくれ。今の話、どれだけ嬉しかったか。奈津にもよろしく言ってくれ。感謝してる。母はなんて?」
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