ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「そうだな。『契約結婚』の契約書だ」

 柿崎は驚いて顔を上げると、黎を凝視した。何だと?なんと言った?契約……結婚?!

 「黎様落ち着いて下さい。どうしたんですか?自分で何を言ってるかわかってないでしょう?」

 柿崎は立ち上がり、黎に言った。やはり、おかしくなった。最近の黎を見て心配していた。彼女のことをいじられ続け、ポーカーフェイスでかわし続ける主を痛々しく見ていた。いつか、彼女のことでおかしくなるのではないかと心配していた矢先だった。

 「……よく分かっている。心配無用だ。柿崎、百合が別れたいと言ってきた……なんと、友達に戻るそうだ……ははっ」

 自虐的な微笑みを浮かべ話す黎を、柿崎は凍り付いて見ていた。そういうことかと柿崎は納得した。

 「誰かに何か余計なことを吹き込まれたとしてもそれだけは許せない。俺がどれだけ我慢をして今耐えていると思う。全部百合のためだ。それなのに彼女は俺を信用していない。迷惑だと?別れたら俺がどうなるか考えていない。迷惑はどっちだ、ええ?」
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