ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

一緒にいるために

 
 日本で彼女がピアノ以外のことで噂になっていようと、実力は海の向こうで認められた。アメリカでも、ヨーロッパでも彼女のことは絶賛された。そして、海外留学の誘いもパリの音楽大学から来ていた。

 百合は、日本にいれば黎を忘れることが出来ないと分かっていた。嫌いで別れるわけではない。好きを通り越して、自分の一部のように愛している人だ。ピアノと比べてどちらを取ると聞かれても、黎を取ると言えるくらい今の百合には命に近い人だった。

 初めて生きていて幸せだと思った。

 もちろん、コンクールの受賞者になったのは、嬉しかったが幸せかと言えば違う。運が良かったのだ。それに才能なんてあまりないから、単に努力の結晶だと思う。

 黎と恋人になってからの毎日は本当に幸せだった。夢のようだった。今まで辛かった人生も彼に出会うためだったとしたら、無駄じゃなかったと思えた。でも、黎のシミひとつない御曹司という生い立ちに、愛人の子である自分が関わると彼の親子関係にもヒビが入ると確信していた。それだけはさせられないと思っていたのだ。
< 217 / 327 >

この作品をシェア

pagetop