ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 黎はかいつまんで今までのことを話した。そして、百合が別れたいと言ってきたこと、父が許してくれなくても自分は別れる気がなかったが、彼女が父と自分の関係を悪化をさせたくないと思っていること、契約結婚を考えていることを相談した。

 「……そう。好きになさい」

 「え?」

 「黎の考える通りにやりなさい。私はあなたの味方です。栗原さんのピアノも実は先月フランスまで行って聴いてきました。ふたりには内緒でね。素晴らしかったわ。こんな素敵なピアニストと私の息子が恋仲だなんて、夢みたいだった」

 「母さん。ありがとう。何より嬉しい言葉だよ」

 「たぶん、本当の結婚になるまでにそう時間はかからないと思うわ。彼女はあなたを思う気持ちがあって、別れを口にしたり、こんな理不尽な契約結婚を承諾したり……よい子なのね、きっと。会わなくてもわかりますよ。今の彼女の海外での評判や活躍を見たら、生い立ちについてどうこう言うことがどれだけ失礼なのか分かっていない。それが自分の夫だというのもがっかりだわ」
< 236 / 327 >

この作品をシェア

pagetop