ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 そう言って電話を切った。

 その頃。
 百合は事務所へいた。神楽に留学を取りやめることを話した。契約結婚のことを神楽には話した。事の次第を聞いて、神楽は目を剥いて怒りだした。
 
 「百合。馬鹿なことはやめるんだ。そんなことをして、大事なピアニスト人生を駄目にする気か。今回の海外公演も評判が良くて、オケからもオファーが殺到してる。堂本に身を捧げても、結局あの会社に利用されるだけだろ。絶対反対だ。許さない」

 「……ごめんなさい。私のために海外公演もしてくれた事務所にどれだけの恩返しができたのかわからない。でも、今のままだと日本でのこの事務所経由の活動にあまり未来がないような気もするの。黎とのことがなくても、留学を選んでいたかもしれないわ」

 日本へ帰ってきて、自分のことがパソコンのニュースサイトや週刊誌にも取り上げられているのを見た百合は、父や、その周囲が何をしてくるかわからないこともありおびえていた。
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