ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
事務所もそういった背景を知りながら、自分を雇うリスクを取るか、どう考えても最近の騒動を思うとうまくいかないのはわかっていた。そして、自分もやりたいことが出来ない可能性のほうが高いと思っていた。
「百合。君の評判は日本以外のほうが高いかもしれない。色眼鏡で見たり、噂好きな日本より、海外のほうがいいだろう」
「神楽さんは私に関わると会社で立場が悪くなるんじゃない?」
神楽は鼻を鳴らして、呆れた目をして上を見た。
「別にこの会社にずっといるつもりはなかったし、君を筆頭にして事務所を立ち上げてもやっていけると思う。君の父上は金を出すと約束しているしね。悪い意味じゃない。君の今後に期待して親として金を出すんだ。心配いらないよ」
百合はわかっていないと、頭を振った。そのお金は、今の家族である奥さんやお子さん達にとったら一円でも私に渡したいわけがない。母がおびえて生きてきた理由はそこにこそある。父は何もわかっていない。そして、目の前の神楽も同様だと分かった。