ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「それは、契約ということは言わないでおきましょう。あとで訴えられたら面倒だ。まあ、契約なんてすぐに本当の結婚になるから関係ないと思いますけどね。このことは私達と父さんと母さん。それに一部側近のみに知らせるというのでどうでしょう」

 「結婚式はどうするんだ?やらないで済むとは思えんがな」

 「今すると、マスコミ対応が面倒です。仕事や演奏活動に忙しいので、来年以降と言っておきましょう。そのころには父さんも許してくれていることでしょうしね」

 要は得意げに話す黎に呆れた。そう簡単にいくとは思えない。彼女がいつまでこの窮屈な生活に耐えられるかそれにかかっていると要は思っていたのだ。
 
 少なからず、耳障りな噂がまずは彼女を襲うことは想像に難くない。黎と結婚を夢見ていた女性が大勢いることもわかっている。彼女が社長夫人の集まりや社交会で歓迎されるわけがないのだ。陰口に耐えられるのか。黎はわかっていないと思った。
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