ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「ああ。実は独立しようかと思っていたところだった。百合のお陰でかなり地方や海外ともコネができたんでね。百合の父親からも準備金を出すと提案されている。ただし百合に父親からのオファーを受けさせるということが条件なので、彼女が納得しないと無理だ。少し考えさせてくれと言ってあるんだ」

 「とりあえずマネージャー業は頼んでいいか?独立に際しての資金援助などはまた別で相談しよう」

 「……堂本。百合のピアニスト人生を無に帰すような結婚だけはやめてくれ。俺は彼女が許してもそれだけは許せない。ここまでにしたのは、俺の力もある。俺を友人と思うなら、真剣に考えてくれ」

 神楽の今後は彼女の活動次第ということもあると黎は計算していた。だが、彼女を愛する同じ男としての気持ちももちろん無下にはできないと思い直した。

 「ああ。百合を幸せにすると約束するよ。ピアノを取り上げるのは彼女を不幸にするだろう。わかっている」

 黎はあの日父親に言ったとおり、社交界でのいわゆる社長夫人としての仕事をすべて洗い出し、改革に着手した。
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