ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「それを言うなら僕だって驚いたよ。名刺に君の名前を見て……」

 「偶然ロンドンに来ていたんだ」

 「そうか……いつ帰るんだ?」

 「明日の便だ」

 「そうだったのか。一緒に食事くらいしたかったが、残念だ。明日はこちらもまた演奏会なので準備がある」

 「そうらしいな。明日までなんだろ?」

 「ああ」

 そう言うと、神楽は自分の名刺を一枚黎に渡した。

 「電話番号は後ろにプライベートを書いておいた。ウチのプロダクションのコンサートなら融通できるから事前に聞いてくれ」
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