ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
心配そうに、妻の手を取って聞いている。紗江子は微笑みを浮かべた。
「そうね。大分良くはなってきました。迷惑をかけてごめんなさい。あなたを責める前に、私がここを留守にしていることをあなたに謝らなければいけなかったわね」
「そんなことは、いいんだ。お前のことが心配なんだ。無理するなよ……」
「ええ。でも百合さんを支えて上げたいの。私も出来ることと出来ないことがあるから、彼女と分担したり、疲れたら休ませてもらったりするつもりよ。百合さん、迷惑かけるけどそれでいいかしら?」
「……もちろんです。無理に帰国なさらなくても大丈夫です。黎さんもいるし、静香さん達も助けてくれます」
「いいえ。口さがない人達を最初は抑える必要があります。こんな私でも役に立つと思うの。最初は特にね。黎が蓮見さん達を使ってあなたを守ろうとしたけれど、年配の女性達のお相手は彼女達にはまだ無理よ」
確かにその通りだと黎は思った。