ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「ああ、それは感謝してるよ。でも、元はと言えば俺が百合を諦めてお前に譲ったんだからな。礼ぐらい貰って当然だ」

 「それはどうかな?百合は最初から俺のものだ」

 自信たっぷりのオーラをまとった黎が現れた。ビールグラスをドンと音を立てて机に置く。
 黎は百合のことだけは譲れない。

 「ああ、わかったわかった。とにかく、百合のコンサートは来月くらいまでで落ち着くんだろ?」

 「ああ。というか、もうオファーをしばらく受けないように担当部署へ言ってある。まったく、冗談じゃない」

 またもやブツブツと文句を言い始める黎を、神楽は面白そうに見ていた。
 
 すると、携帯電話の音が鳴っている。神楽の電話だ。どうやら静香からだったらしく、彼女とこれから会うという。神楽の会社は蓮見商事がバックについた。もはや、親公認での付き合いとなった。
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