ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「おととい、お目にかかったとき、私は演奏のことで迷いがあり、非常にメンタルがナーバスになっていました。そこへ、堂本さんに名前を知っていて頂いたことがきっかけとなって、私を応援して下さる方のために頑張ろうと気持ちを入れ替えることが出来たんです。今日の演奏はその成果です」

 黎はびっくりした。

 「それは、嬉しいな。つまり、俺のことを考えながら演奏をしてくれたということかな?」

 百合は、まさかそういう風にとられるとは思っていなかったので、また赤くなった。

 「え、えっと。そうですね。弾く前は堂本さんに褒めてもらいたいと思っていたことは事実です。私、弾き出すとあまり音楽以外のことは考えないので。でも気持ちが前向きになるので良い演奏になります」

 黎は彼女の言葉と表情を見て自分の中にあった、言い訳や迷いがすっ飛んだ。あることを心に決めた。そう、友人だけでは足りない。だが、とりあえず友人にならないと何も前に進まない。
< 31 / 327 >

この作品をシェア

pagetop