ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「そうだな、おそらくお父さんはすぐにできるだろう。俺の心配はそこじゃない」

 百合は不思議そうに黎を見た。

 「何が心配なの?」

 「……百合にはわからない」

 「え?」

 「でも、いいんだ。母さんとも相談したけど、しばらくは君のリサイタルや社交もすべてお休みにする。ピアノは趣味で弾いてくれ。とにかく、体調を万全にして出産に臨んで欲しい。出産までは、とにかく百合は俺のことだけ考えていればいいんだ」

 「ええ?……何それ……お腹の子供のこと考えるんじゃないの?」

 黎は気色ばんで言い返した。
< 318 / 327 >

この作品をシェア

pagetop