ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「ありがとう。また、必ず連絡するよ。このもらった紅茶がなくなる前にね」

 「え?」

 黎が手を差し出した。友人の握手?

 百合は手を差し出すと、彼が近寄って来てその手をつかむようにして握手した。
 大きな手に百合の手が包まれた。暖かい。気持ちが流れ込んでくるようだった。
 百合がぼうっとしていたら、急に手が離れた。
 
 「栗原さん、次会うときまで元気でね」
 
 「はい。堂本さんもお元気で」

 百合がそう言うと、彼は背中を向けて出て行った。
 緊張感がほぐれて、ため息が出た。
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