ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「神楽ありがとう」
黎が出てきた。壁に背中をつけて漏れ聞こえる声を聞いていた神楽は彼に目をやる。
嬉しそうな顔だ。こんな顔大学時代も見たことがない。嫌な予感がした。
「いや。マフラー、すまなかったな。彼女はそれのおかげで風邪を引かずにすんだかもしれない」
「役に立って良かったよ。それじゃ、また」
手を上げて去って行く彼を神楽はじっと見つめ、頭を振ると百合のいる控え室へノックをした。
「はい」
「俺だ。帰るけど準備はいい?」
「ええ。入ってちょうだい」
中に入ると、まだドレス姿の彼女がいた。