ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「百合、まだ着替えてなかったのか?」
「え?ああ、堂本さんが来るってわかってたから、なんとなく着替えないでお会いした方がいいかなと思って……」
百合が顔を赤らめて言う。神楽はギリギリと手を握った。
「……じゃあ、着替えて。外に居るよ」
「はい。ごめんなさい。すぐに着替えます」
外に神楽は出た。そして扉に背を預け、ため息をついた。
恐れていたことが起きた。今後彼が近寄ってこないとは今日の様子からとても思えない。
黎は、神楽に遠慮するようなタイプでもない。何を話したのかあとで問い詰めようと決めた。
着替えて出てきた百合は疲れていた。緊張もあったのだろう。安心したのか、あくびをしている。