ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「あ、すまない。知りもしない男からもらったマフラーなんてしたくないか?」
「え、っと。あの、これからお帰りになるんですよね?お返しできなくなるので、いいです……」
彼女が首からマフラーを離そうとしたので、黎は手を上げた。
「お気になさらず。そのマフラーは新品です。先ほど母からもらったものなのでね。今僕はこの通りしているマフラーがありますので、良かったらその新品を使って下さい。それにここは寒いですよ。そのコートは襟がないのでスカーフがないとさぞかし寒いでしょう」
「ありがとうございます。でも、お返ししないといけないし……ハ、ハックション!」
彼女はまた身体を折ってくしゃみをしている。
「もし、時間があるようならこの近くのカフェで温かいものでもどうですか?日本語で話すのも楽しいのでね。身体をあたためた方がいいんじゃないかな?」