ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 結婚したことをきちんと伝えたいと前々から言っていたからそのことだろう。
 母もきっと喜ぶ。奈津のことも可愛がっていたからだ。

 「そうだな。今度は一緒に行こう」

 「はい。ありがとうございます。そうだ、旦那様が戻ったら黎様に話があるとおっしゃってましたが……」

 黎は嫌な予感がした。

 二十七歳になったばかりだが、女性を回りにまったくおかない自分を心配して、見合い話をまたもってきたのかもしれない。自分とは正反対な父は女性が大好きだ。
 
 母と結婚してからも、つまみ食いをするよくない男だ。自分の父だからしょうがなく我慢しているが、同じ男として最低だと思う。
 母はそういうこともあり病気がひどくなったのではないかと、父を憎む気持ちも少年時代はあった。

 姉ふたりには溺甘だった。
 彼女らは父の紹介した男性と利益のある結婚とやらをして出て行った。
 もちろん、今も幸せそうだから文句はないが、自分は父の思うとおりには絶対なるまいと反面教師のように決めていた。
< 42 / 327 >

この作品をシェア

pagetop