ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 そして、父のようにいろんな女性を次々と好きになることもないし、結婚するならよほど気に入った相手でないと無理なのもわかっていた。正直今までは女性より仕事のほうが好きだったくらいだ。
 
 だから、いくら何を言われても結婚だけは自分で決めたいと言っていたのだ。

 父にしてみれば、やっと出来た男の子。ひとりしかいない。出来も悪くない、優秀な息子だと他人に自慢しているらしい。
 
 俺をエサにしてたくさんの企業のお嬢様の中から大物を釣り上げようと企んでいることも知っている。

 「父さん、戻りました」

 「ああ、おかえり。紗江子の具合はどうだった?」

 「ええ。この間より元気になっていて安心しました」

 父は、窓の外を見ながら急に黎に振り返って答えた。
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