ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「そうか。良くなったら戻るつもりならいいんだが。帰りたくないようなことをこの間言っていたので心配なんだ。俺の妻としての仕事も少なからずあるんでな」
つまり、大企業夫人としての社交のことだろう。母は取引先企業の社長の娘だ。そういうことも嫁ぐ前から期待しての結婚だった。だが、父が女好きで色々やらかすから母は社交の時にそのことをいじられてから、そういう場に出ることを拒みはじめた。
「……父さん。良くなるまではその話はしない約束ですよ」
黎は睨むように父を見た。そんな息子を引いた目でみている。
「黎。そうやって、母親を庇いたいならお前が母の代わりを探してきて結婚しろ。そうして母の堂本コーポレーション社長夫人としての仕事をお前の妻に肩代わりさせろ。お前が次の社長候補であることは周知の事実だから、何の問題もない」
そういうことか……攻め方を変えてきた父を黎は冷静に見つめた。