ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
父は経営者として優秀ではある。だが、情に弱いところもあり、そういうところが女性につけ込まれる原因だ。
昔、母は父の女好きはおそらく治らないと寂しそうに言っていた。黎は女性を泣かせてはダメよといつも母が言っていた。
その言葉を忘れたことはない。優しい母を泣かせる父は天罰が下ればいいと本人に噛みついたこともあるほどだ。
黎は帰ってきたら父に仕事のことである提案をしようと考えていた。
今がそのいい機会かもしれないと思った。
「父さん。ひとつ提案があるんですけど……」
「なんだ?見合いをする気になったのか?」
「そうではなくて、社交の代わりの件です」