ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
さすが、父さん。黎はうなずいた。
「はい。実は先日ロンドンで大学の同級生に偶然会いました。彼はクラシック音楽専門プロダクションで働いている。そのコンサートも見てきました。昨年の音楽コンクールの受賞者がピアニストでロンドンの交響楽団と共演していたんです」
「……俺には、何のことやらよくわからんが、その、コンサートを企画している会社のやつが同級生なのか?」
「はい。ピアニストのマネージャーをしていました。大学時代から知っていますが、彼はいずれ自分で音楽会社を経営する夢があったから、私と同じ経営学を一緒に勉強していたんです。夢に向かって真っ直ぐに生きている、優秀な男なんですよ」
「……なるほど。その会社は出資して潰れるような小さな会社ではないんだろうな。どちらにしても役員会へかける前に、財務状況などは取り寄せて調べる必要があるからな」
「割と有名な所ですので、大丈夫だと思います」
父はしばらく目をつむって黙って考えていたが、顔をあげると黎を真正面から見据えて言った。