ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 金曜日。
 朝、彼はいつになく良いネクタイとスーツを着ていた。大事な商談かと思ったがそんな予定は思い当たらない。

 途中、花屋へ寄ってわざわざ自分で花束を頼んでいる。後で夕方取りに行くという。
 
 これは間違いない。今日デートだと確信した。しかし、相手を聞くのも、今日の予定を確認するのも野暮というものだろう。
 
 良い歳の彼にもプライドがあるだろうと柿崎は思い、知らぬ振りをしてやった。どうせいずれ知りたくなくても知る運命にある立場だ。

 その日。
 黎は機嫌良く仕事をこなし、残業をしないとの宣言通り、十八時には上がった。
 そして、柿崎らを振り切って自分でタクシーを呼んで、花屋へ寄ると頼んでいた花を受け取った。

 そして、イタリアンへ行ったのである。
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