ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 黎は、コーヒーを飲みながらため息をついた。

 「もちろん、そちらの会社に出資するんだから、所属のアーティスト全員が対象だけど、当社の希望も聞いてもらう。アーティストは選ばせてもらうつもりだ」

 百合はシャーベットをスプーンですくいながら、考えている。

 「栗原さん?」

 「……いえ、もちろん良いお話しだと思います。お金はあったに越したことはないと思うんです。ホールを借りるのもたいへんですし」

 「じゃあ、何が心配なの?」

 「別に心配はしてません。私は決められたスケジュールで演奏していくのが仕事です。まだ、駆け出しですし、自分の意思を通せるほどキャリアもありませんので」
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