ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない
「たいしたものじゃないよ。リサイタルのときに使えるようにレースのハンカチだ。刺繍が入っている。色は白だから、きっと使える」
小さな箱を手渡すときに、彼女の手に乗せて、上から握らせる。
彼女はじっと彼が自分の手をつかんでいるのを見ている。でもよけない。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
傘をさして背中を押してあげると、エントランスへ歩き出した。入り口まで傘をさして肩を抱いていく。
彼女は黎へ頭を下げて、エントランスを入っていった。
彼女がエレベーターへ行くのを見てから、戻ってタクシーに乗った。
黎は嬉しかった。
彼女は自分の手を拒まなかった。それに、一緒にいるときも楽しそうだった。それだけで満足だった。