ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

side 黎

 
 栗原百合は最初全く俺を男として意識していなかったと思う。

 とにかく、友達から昇格しないとどうにもならない。

 美術館へ誘ったのはデートのつもりだが、本人はいたって勉強のためという風だった。

 俺に会うからといって、特別おしゃれしてきたというわけでもない。 

 ロングスカートに淡いピンクのカーディガン。髪は肩より少し長いくらいだが、今日は珍しく下ろしている。

 「今日は、何かオフって感じだね」

 百合は自分の姿を左右に目をやって見ながら、首をかしげる。

 「そうですか?あれ?堂本さんってどんなときにお会いしてましたっけ?」
< 82 / 327 >

この作品をシェア

pagetop