ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 「黎だよ」

 「……黎さん」

 「よろしい。さあ行こう」
 
 そう言って、棒を捨てて彼女の手を取った。

 「え?」

 彼女は手を引かれて、びっくりしていたが離すことはなかった。

 彼女は俺の顔をじっと見つめている。

 「何?」

 「あ、あの。黎さんと歩いているとすれ違う女の人がこっちを見てるの。手とか繋いだら、まずくない?」
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