記憶喪失幼馴染は私への執着を隠さない
「くぅ…うわぁぁあぁああぁん」
「うん、泣いていいんだよ」

彼はそっと、私に寄り添って抱き寄せてくれた。
どれくらい泣いただろう。少なくとも朝ごはんはすっかり冷めてしまっただろう。

「ごめんね…大の大人が…」
「誰でも泣きたくなる時はあるよ」
「ありがとう」

彼は水の入ったコップを差し出しそう言ってくれる。

「落ち着いたら飲んで」

そう言い朝ごはんにラップをして冷蔵庫に入れる拓斗。
私はコップの水をこくこくと飲み、コップを拓斗に手渡す。

「ごめん、ありがとう」
「大丈夫だよ」

その日は休日だがあんまり人様の家に居る訳にはいかない。朝ごはんも食べた事だし帰る事に。

「もっと居ても良かったんだよ?」
「ううん、あんまり人様の家に居るもの悪いから」
「そっか、それじゃあ連絡先交換しない?」

そう言うとスマホを取り出す拓斗。

「そうだね」

互いの連絡先を交換し、私は拓斗の家である高層マンションを出る。わざわざエントランスまで見送りに来なくてもよかったのに…「できれば家まで送りたいくらい」とまで言ってくれる。

「優しい所は変わらないんだね」
「だって…うんん、この事はまた今度話すよ」
「そう、それじゃ」

私は拓斗に背を向け、自分の住むアパートに向かう。
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