エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 あまりにも一瞬の出来事でなかなか今の状況が整理できずに、目をぱちくりさせていると先に男性が口を開いた。


「昨日の雪のせいで今日は滑りやすいですからね。転ぶ前に助けられてよかった」


 ニコッと微笑む男性の笑顔があまりにも優しくてドキッと小さく胸が高鳴った。


「あっ……」


 そうだ、滑って転びそうになったんだと思いだしたと同時に自分が男性に抱きしめられている状況にようやくハッとした。


「す、すいません! 助けてもらってしまって! 助かりましたっ」


 慌てて男性から身体を離し、菜那は勢いよく頭を下げる。穴があったら入りたいとはこういうことを言うのかと、一気に羞恥心が湧き上がり自分でもわかるくらいに顔が熱かった。多分、今顔を上げたら耳まで真っ赤に違いない。


「いえ、間一髪ってところでしたから、もしかしたら間に合わなかったかもしれないですし。では、気を付けてくださいね」


「はいっ、本当にありがとうございました」


 彼が立ち去るのを見送ろうと顔をあげると、ばっちりと目が合ってしまった。
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