エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 ぼうっとする頭をフル回転させて出てきた言葉がこれだった。


「あ、あのっ、うちの会社倒産するんです!」


「え……?」


 蒼司の驚きを含んだ声に思わずぎゅっと目を瞑ってしまった。こんなタイミングで言う予定じゃなかったのに、と心の中で後悔する。


「倒産……知らなかったです。菜那さんの予約をするのにホームページの他のところなんて全く見ていなかったから」


「そ、そうなんです! 業績不振で今日は宇賀谷様だけのご予約なんで張り切って頑張らせていただきますね!」


 明らかにしぼんだ蒼司の声にゆっくりと瞼を開けると蒼司と目が合った。寂し気な瞳に思わず息を呑む。


「次の仕事先はもう決まってるんですか?」


「いっ、いえ、まだです。社長が次の就職先も用意してくれるとおっしゃてくれてるんですけど、なにか違うことに挑戦してもいいかなぁっとも思ってるんです」


 菜那は苦笑いしながらキッチン器具を洗い進める。挑戦したいって気持ちがあるのは嘘ではない。でも特にコレに挑戦したい、というものがなかった。学生時代特別勉強ができたわけじゃない、運動もそこそこ、歌がうまいとか、絵がうまいとかも一切ないごく平凡な女子高校生。


 毎日目の前の事に必死で未来を見据えて勉強、なんて考えたこともなかったから。今も何を挑戦したいのか分からない。自分の空っぽさに思わずため息が出そうになった。

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