エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「違うところですか……なら」


 蒼司にトントンと肩を叩かれ、振り返る。


「俺のところに来ませんか?」


「へ? 宇賀谷様のところに? 事務員とかですか?」


 菜那は首を傾げて蒼司を見た。すると拍子抜けしたように口を小さく開けて顎を触っている。


「あぁ、事務員か。確かにそれもいいかもしれません」


 クスクスと笑いながら蒼司はソファーに置いてあったパーカーを取りに行き、着ながら菜那の方へと戻ってくる。


「違いましたか?」


 蒼司は「ええ」と頷くと菜那の二の腕をツンと人差し指で突いた。たった指先一本分の面積しか触れていないのに、そこから発火していくような勢いで熱く感じる。


「菜那さんと結婚したいってさりげなく言いました。でも、貴女にはストレートに言わないとやはり駄目ですね」


「けっ……」


 結婚――。


 ぐしゃっと握っていたスポンジを強く握ってしまい、しゅわっと泡が溢れた。

< 101 / 220 >

この作品をシェア

pagetop