エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「菜那さんのスマホじゃないでしょうか? 電話、出てもらって大丈夫ですよ」


「いえ、大丈夫です。後で折り返しますので」


「でも……ずっと鳴ってますし急用かもしれません」


 急用という言葉にドクンと身体が脈打った。菜那は慌てて手の泡を水で流す。もしかして、とよぎる不安に並行して心臓がバクバクと鳴っていた。


「すいません。やっぱり電話に出させてもらいます」


「もちろん、どうぞ」


 ペコリっと蒼司に頭を下げて、菜那は自身のバッグからスマホを取り出した。


 やっぱり――。


 身体の違和感は見事的中した。母親の入院している病院からの電話だ。菜那は震えかける指で通話画面をタップした。


「もしもし――」

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