エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 カタカタと細かくスマホを握る手が震え始めた。どうしよう、怖い。負の感情で飲み込まれそうになる。


「菜那さん!」


「あ……」


 冷えていく身体が優しく包み込まれた。何度も感じたことのある温もりに底に落ちそうになっていた気持ちが段々と這い上がってくる。


「大丈夫ですよ。俺もいますから」


 どうしてこんなにも優しい人なんだろう。理由も分かっていないはずなのに、菜那の動作一つで気が付いてくれた。柔らかな声に目頭が熱くなる。蒼司に心配ばかりかけてしまっている自分が情けない。自分がもっとしっかりしないと。


 菜那は大きく深呼吸して、蒼司の腕の中からすり抜けた。


「すいません。ちょっと抜けさせてもらってもよろしいでしょうか? 母が入院しているんですけど、少し容体が悪いみたいなので」


 その瞳にはしっかり力がこもっていた。

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