エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「そ、蒼司さん」


「……最高に嬉しいです。さぁ、車まで走りますよ」


「えっ、あっ、はい!」


 肩を寄せ合い、一緒に駆け出した。パチャパチャと足元で水音が楽しそうに鳴る。


 雨の日がこんなに楽しいなんて知らなかった。雨の日は正直あまりいい思い出がないから。


 蒼司のコートを傘代わりにして、寄り添う肩がぶつかるたびにドキっと心臓も跳ねる。服の厚みがあるはずなのに蒼司に触れるだけで心が喜んだ。


「あ~、結構濡れちゃいましたね。菜那さん冷たくないですか?」


 菜那はほんの少し肩が濡れただけ。運転席に座っている蒼司の方が背中の方まで濡れている。


「私は全然っ! 蒼司さんのほうが濡れてしまって、なんか色々……申し訳ございませんでした」


「そんなに謝ることじゃないですよ。気にしないでください」


「で、でも、その他にも……母の前で、その、恋人のふりをしてもらってしまって……」


 椅子に腰を下ろして一段落すると色々と恥ずかしい場面が蘇ってくる。母親のためだとはいえ蒼司に恋人の振りをしてもらったこと、蒼司の言葉一つ一つ、それが嬉しかったこと。 

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