エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 うつむく菜那に蒼司は「ああ」と思い出したように笑った。


「菜那さん、こっちを向いてください」


「はい……」


 ゆっくり蒼司の方を向く。明るい声色だったと思ったけれど、目が合った蒼司は笑ってなんかいなかった。とても真剣な顔をしている。いつもこの瞳に吸い込まれそうになるのだ。


「お母さんの前で急に恋人の振りをしてしまってすいませんでした。でも、そのまま俺の事を利用してくれてもいいとも思いました」


「え? 利用、ですか……?」


「ええ。俺は何度も言っている通り貴女が好きです。しっかりしてそうで、うっかりしているところも。何に対しても一生懸命で、優しくて、そして弱いところも全部好きです。俺と結婚してくれませんか?」


 ……利用して、結婚?


「宇賀谷様を利用して結婚って……どういうことですか? ごめんなさい、私高卒で頭も悪くてっ」


 動揺のあまり口元を触ったり、頬を触ったりどうも気持ちが落ち着かない。


「今日、菜那さんのお母様の前で恋人の振りをしたとき、不謹慎ですけど凄く嬉しかったんです。お母様の喜んでいらっしゃる顔を見て、照れている菜那さんの顔を見られて。菜那さんの偽の恋人になれるだけでもこんなに嬉しいんです。でもその喜びを知ってしまうと人間というのは欲張りで、もっと欲しくなってしまうんですよ」


 挙動不審に動く手を蒼司は優しく掴んだ。

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