エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「それがね、近藤様の大切にしていた腕時計がなくなっているっていうのよ。心当たりはある?」


「腕時計、ですか?」


 昨日はたくさんのゴミを処分して、ダイニングテーブル周りのものを片しただけだ。腕時計なんて見てもいないし、ましてやそんな高級なものを勝手に捨てるはずがない。菜那は毎回しっかりとお客様に確認するほどの慎重ぶりだ。勝手に捨てることは絶対にしないと言い切れる。


「腕時計は見ていません」


 菜那は社長の目を見てハッキリと口にした。


「そうよね。菜那ちゃんが勝手に捨てるだなんて思ってもないし、ましてや盗むだなんてありえないわ。とりあえず私が直接謝罪にいってくるから」


「えっ、近藤様は私が盗んだかもしれないと思われているんですか?」


「あ……まぁそうね、そういう内容の電話だったわ。そんなことはあり得ないのは分かってるけどお客様に不満を持たせてしまった以上、今から謝りにいってくるわね」


 社長はデスク近くにかけてあったコートを羽織り、出かける準備を始めた。菜那は社長の前に立ち深く頭を下げる。


「私も一緒に行きます。盗んだなんてことは絶対にはないですけど、私が招いてしまったことなので同行させてください!」


「菜那ちゃん……わかったわ。一緒に行きましょう」


「はい」


 沙幸にすいません、と頭を下げ、菜那は社長の後をついていった。
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