エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「菜那さん」


 口を塞いでいた手を取られ、もしかして……と思った頃には唇が重なっていた。そっと離れていく唇は満足げに口角を上げている。


「じゃあ、行ってきます」


「……いってらっしゃいませ」


 自分の吐く吐息が熱かった。蒼司の背中が見えなくなり、菜那もリビングに戻る。


「さてと、行きますか」


 菜那も靴を履いて家を出た。


 職業安定所で仕事を色々調べてみたけれどどれもピンっと来なかった。接客、営業、製造、介護スタッフ、どれもやってみればきっと楽しいのかもしれない、やりがいもあるのかもしれない。


 数社だけ職業情報を印刷してマンションに帰ってきた。そのままソファーに座ることもせず、菜那は自室の片付けを済ませ、リビングの掃除や洗面所を掃除していたらあっという間に夕方になっていた。大きな窓からは柔らかなオレンジ色の光が差し込んでいる。


「一人だし……」


 冷凍うどんを茹でて食べた。食べて、食器を洗って、お風呂に入ってと一通りのことを済ませるとどっと眠気が菜那を襲ってくる。

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