エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 社長に、会社に迷惑をかけてしまったという申し訳ない気持ちでいっぱいだ。それに、誠心誠意頑張ったつもりのお客様に泥棒扱いされているなんて……泣きそうなったがグッと飲み込んで、菜那はしっかりと前を向いた。きっと近藤もちゃんと説明すれば分かってくれるはず。社長の運転する車の助手席に乗り、途中で菓子折りを買って近藤の家に向かった。


 インターホンを押す指先がフルフルと恐怖で震える。


「堀川さん、大丈夫?」


 堀川と呼ばれてビシッと活を入れられたような気がした。菜那は大きく息を吸い、呼吸を整えて背筋を伸ばした。


「大丈夫です」


 インターホンを押すとすぐに近藤が家から出てきた。睨むような視線、明らかに不機嫌な表情で菜那の身体に緊張が走る。


「近藤様っ――」


「近藤様、この度は不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ございませんでした」


 菜那の言葉を遮るように社長が一歩前に出て近藤に頭を上げた。菜那もすかさず社長に続いて頭を下げる。


「金を払わせておいて、客のものを盗むなんてとんだ詐欺業者だな」


 怒鳴るわけでもなく、地鳴りがしそうなほどの低い声。
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