エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「本当に立派なお花だよね」
たくさんの花が飾られた花瓶を持とうと近づいた瞬間、花の甘い香りがやけに強く感じ、吐き気を催した。
「っう……!」
胃の中のものが競りあがってくる感覚に驚いて、咄嗟に洗面所に顔を伏せた。
「菜那? 大丈夫?」
心配そうな母親の声が聞こえ、菜那は口元をぬぐって笑顔を見せる。
「ははっ、大丈夫。なんか花粉の匂いが強すぎたのかな? こんなたくさんの花の匂いなんて滅多に嗅がないから」
「菜那……もしかして……」
「ん? 何?」
「ううん、なんでもないわ。体調に気をつけなさいよ」
「分かってるって。じゃあ花瓶の水換えるね」
やっぱり匂いがきつく感じるけれど、グッと息を止めて新しい水に入れ替えた。
(こんなに花の匂いダメだったっけ? なんかすごく気持ち悪い……)
花から遠ざかっても胃のムカムカした感じが治まらない。なんだか立ち眩みのような感覚を感じてきた菜那は無理矢理笑顔を作った。
「お母さん、今日は用事があるからもう帰るね。また来るから」
「そんな頻繁に来なくて本当にいいから。菜那、自分の身体を一番大事にしなさい」
「うん、わかってるよ。じゃあ帰るね」
菜那は鞄を持ち、少し急ぎ足で病院を出た。