エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 頑張りすぎなくていい。そう蒼司に言われたけれど、菜那は出来なさすぎる自分に落ち込んでいた。


「ううっ……」


 気持ち悪い。リビングに掃除機をかけていた菜那はトイレに駆け込んだ。


 胃の奥から急に襲い掛かる吐き気。悪阻で色々なことが出来なくなっていた。炊き立てのご飯の匂いを嗅ぐと気持ち悪くなり、なんとかご飯を作っても後片付けの生ごみ処理の匂いで気持ち悪くなったりと思うように事が進まない。食欲も湧かなく食べたら吐いてしまい常に胃の中は空っぽの状態。吐いても出てくるのは酸っぱい胃液だけ。


 吐き切り、トイレを出て洗面所ですぐに口をゆすいだ。


「はぁ……」


 鏡に映る自分の顔は分かりやすいくらいげっそりとしている。初めての妊娠、初めての悪阻。何もかもが手探り状態の中とはいえ、蒼司の為に何もできていない自分に嫌気がさしていた。菜那の事を気遣い、家事の苦手な蒼司も率先して手伝ってくれ、最近では蒼司のほうがキッチンに立っている気がする。自分の唯一の取柄である家事でさえまともに出来ない。


(ご飯もまともに作れなくて、蒼司さんにばっかり負担掛けちゃって……奥さん失格だよね)


 肩を落としながらリビングに戻ると自室でリモート打ち合わせをしていた蒼司が部屋から出てきていた。

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