エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 知らなかった。


 唇をぎゅっと結んで、菜那は視線を床に落とした。取柄のない小娘と言われて反論する余地もない。図星だったからなんの言葉も出てこなかった。


「蒼司くんは世界でも活躍できる建築家なのは分かってるわよね? 私だったら蒼司くんの手がけた建築物をもっと有名にすることだって出来るわ。彼は世界でもっともっと有名になれる。けど貴女は? 彼の為に何ができるの?」


「私は……」


 彼の為に何が出来る?


「ほらね、すぐに答えられない程度なのよ」


 じりじりと愛羅が近づいてくる。怖くて距離を保とうと菜那も少しずつ後ろに下がると背が壁にぶつかった。


「っ……!」


 ガツンと鋭い音とともに愛羅の長い脚が壁に当てられ、菜那の顔の横に愛羅の長い脚が見える。


「そんな低能な女、蒼司くんの側に要らないわ。自ら去ることを考えなさい」


 頭上から見下され、怖さのあまり震えそうになりながらも菜那は無意識にお腹を守っていた。

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